平成18年、京都御苑の中に“京都迎賓館”が
完成しました。

 贅を尽くしたさまざまな場所に花を生けて、
迎賓館を紹介、また
同じ花材を用いた小品作を
掲載し、読者の方に暮らしの花として
活用して
もらう企画で、京都新聞に連載されました。

 京都いけばな協会の会員が順番に担当し、平
成18年〜19年に
かけての連載で、副家元の
松本司は平成19年1月29日付の夕刊
に掲載
となりました。

 担当の作品設置場所は、中央の大池のほとり
に張り巡らされた
濡れ縁でした。

 「まだ遠い春。冬の内にも静かに準備がすすむ。
甘い香りを放つ
ロウバイと白玉ツバキ、水の輪廻
をイメージした円弧を描く割り
竹の『風景2007−
春の予感−』」(記事より)

 迎賓館は諸外国のVIPの方々の利用が目的で、
時折開催され
る一般公開の時以外は入れません。
掲載記事のための制作なので、
撮影終了後すぐに
撤去したので、作品を鑑賞できたのは一部の職

さんと池の鯉のみでした。

【以下掲載文】  “水の輪廻を竹の流麗さで表現”

 大滝から流れ出る清い水は、小川を経て中央の大池へ。山から湧き出づる水が、川の流れに
身をまかせ、やがて大海へと
流れ着くという自然の水の輪廻をイメージした造りとなっている
ようです。
 街中にあるとはとても思えない、静けさ漂う京都迎賓館の日本庭園。その大池を囲む各部屋
からは、さまざまな水の景観
が楽しめます。周囲の建物には「花崗岩のダイヤモンド」なる別
名を持つ、香川県産のきめ細やかな庵治石を敷き詰めた濡
れ縁が巡らされています。すぐ足下
に水面を見ながらその軒先にたたずむと、真冬の寒さも忘れるほど、心地よい気分にな
りまし
た。

 私は、いつも竹と向き合い、竹にこだわって創作活動を続けています。その時、その空間で
感じた心象風景を作品に投影
し「風景」シリーズとしています。

 穏やかな大池を眺めつつ、すべての生命の源である水を、細く割った竹の流麗な曲線で表現
しました。実像の竹は、水面
に映り込む虚像と合わさって円弧を描き、循環する水の輪廻をイ
メージしました。

 ロウイバイは「蝋梅」または「朧梅」と記します。蝋のような質感の花、またその色が密蝋
に似ていることや、朧月(旧
暦の十二月)のころに咲くことに合わせて、蕾の形や香りが梅に
似ていることから名前に「梅」の字が付くなど、その由来
には諸説があるようですが、梅とは
全く別種の樹木です。

 ほどなく立春を迎え、暦の上では春となりますが、京都の底冷えはこれからが本番です。マ
ンサクやサンシュユ、レンギ
ョウなど、寒い時期に黄色い花を咲かせる樹木が多い中、とりわ
けロウバイは、甘く芳しい香りを放ちながらいち早く咲き、花色の黄色と相まって、まだ遠い
春を少し近くに感じさせてくれます。

 万物が自らの誕生へ向けて、また、最も輝く時期へ向けて、もの静かに着々と準備を整える
冬。やがて春が訪れると、一
斉にその息吹を告げることでしょう。

迎賓館にいける−花ごころ−松本司作品ページへ